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スポーツボランティア公開講座

開催報告2017年度 第5回公開講座

2017年度 第5回公開講座
2017年度 第5回公開講座

2018年2月7日(水)に「オリパラ5大会を取材した記者が語る『平昌オリパラをより楽しむポイント』~歴史からレガシー、そして2020へ~」と題した公開講座を開催し、20名の方にご参加いただきました。過去5回のオリンピック取材経験を持つ佐野慎輔氏に平昌オリパラの楽しみ方などをお話いただきました。佐野氏からは以下のようなお話がありました。


ただいま司会者からオリパラ5大会を取材した記者と紹介されましたが、5大会と聞いて多いと思いますか。実はあまり多くないのです。平均より少し多いかなと思いますが、中には10大会を数える人もいます。私は取材記者として5大会に行き、その後は送り出す役をしました。報道陣は記者村に入って、ホテルなどを基地にして取材をします。そこに入れるのはIDカードを持っている記者だけです。夏は社会部や外信部の記者が友軍として町の話題を取材します。その記者たちのために宿舎を用意したり、プレスツアーという先乗り取材があったり。取材記者としての他、このように裏方でも関わりました。本日はこれまでこの目で見てきたことを皆さんにお伝えいたします。


私が今日しているネクタイは長野オリンピックの時のミズノのネクタイです。スポンサーだったミズノが作成して配った物です。ロンドンオリンピック以降はネクタイがありません。グッズを作るためにはロゴマークなどの使用許可のため組織委員会にロイヤリティを支払う必要がありますが、マーケティングでネクタイがビジネス的に合わないとして作らなくなったのです。経済の問題はオリンピックと非常に絡んでいます。


ここにいる皆さんはオリンピックのボランティアに意欲のある方々なので、平昌のボランティアにも関心があると思います。2,000人のボランティアが離脱したとの報道がありました。ボランティアの想定は15,000人でしたが、集まったのは18,000~19,000人。実は組織委員会は想定の15,000人分しか宿舎、ユニフォーム、バスの便などを準備していませんでした。日本ではこのようなことはないと思います。平昌オリンピックの日程をお話しますと、開会式は2月9日で25日まで17日間で行われます。7競技102個のメダルイベント、金メダルが出ます。92ヵ国2,925選手が出場します。これは冬季オリンピック過去最多の数です。ですからボランティアも大変です。これだけの選手の対応をしなければならないので15,000人という数が出てきたのです。パラリンピックは1ヶ月後の3月9日から18日までの10日間で、6競技80個のメダルイベントがあります。まだ正式ではありませんが50ヵ国800選手を想定しています。大会の会場は開・閉会式と雪上競技は平昌、氷上競技は江陵、そして旌善でも雪上競技が行われます。スローガンは"Passion Connected"(一つになる情熱)。ここに南北統一の意味を込めたと言われています。なぜ平昌を会場にしたのか。ソウルから東に行くと平昌があり、江陵は東の端、日本海に面した所です。江陵という町は朝鮮戦争の時に北朝鮮軍が入って来たルートの一つでした。江陵の海岸には今でも有刺鉄線が張られています。北からの侵略を防ぐためだと言われています。だからこそここで開催しなければいけないということです。


大会招致には苦労しました。2010年はバンクーバーに、2014年はソチに敗れ、3度目の正直でやっと勝ち取りました。なぜ平昌なのかと言うと、ここが唯一のスキーリゾート候補地なのです。韓国は基本的に雪が降りません。韓国で盛んなのはスケート競技で、特にショートトラックでは今回もかなり金メダルを取ると思います。しかしスキー場はほとんどないのです。そこでこのオリンピックを開くことによって平昌をスキーリゾートの拠点にしたい、ここに人を集めて開発したいと考えたのです。平昌のある江原道という地域は韓国で一番遅れた地域なのです。平昌郡があるのは700m以上の高地で、雪は降りませんが寒さがすごいのと風が強いのです。2月9日に行われる開会式では零下20度くらいになる可能性があると言われていますので、午後8時からの式にはほとんどの選手が出ないと思われます。選手達の体調管理ができないのではと心配です。ボランティアも大変だと思います。韓国はここをスキーリゾートとして売り出したいのですが、かなり厳しいと思います。ソウルからの交通費が高いのと、雪がないのでスキーリゾートと言ってもすべて人工雪なのです。江陵は海産物が有名で豊かな町です。


今の文大統領は休戦中だからこそ国交を回復させるために北朝鮮を参加させなければならないと考えています。理想は素晴らしいと思いますが、懸念はあります。2000年のシドニーオリンピックで南北合同行進をしました。これは金大中大統領の時に実現しましたが、この時は相当の金額が北朝鮮に渡りました。今回もその可能性があります。北を動かすにはこれしかないのです。女子アイスホッケーのチームは23人の出場枠なのですが、そこに北朝鮮から12人の選手が入り35人になりました。でも試合に出られるのは23人なので出られない韓国の選手がいます。また韓国・北朝鮮チームだけが35人なのです。アイスホッケーは怪我も多く非常に激しいスポーツです。それが35人と23人のチームではスタートが違います。スポーツはスタートの位置は同じでなければいけないのです。スポーツでは結果は不平等でもよいのです。しかしスタートラインは同じであるべきで、それがスポーツマンシップなのです。この女子アイスホッケーはそれをすべて無視して友好と言う言葉で覆ってしまっています。スポーツとしてこれでよいのかなと思っています。韓国は少し翻弄されています。1月に金正恩朝鮮労働党委員長が参加する意思があるとスピーチしてから韓国がバタバタ動き、韓国からいくつかの提案をし、北朝鮮はそれに対して選ぶだけという状態です。参加するのはよいのですが、このような形はスポーツの世界と違うのではないかと思います。


今国際スポーツの目は東アジアに向かっています。この平昌を皮切りに2020年の東京、そして2022年の北京。東アジアでオリンピック3大会があります。10年周期とも言われています。1988年のソウルから1998年に長野がありました。長野から10年後に北京があり、そして平昌冬季大会です。ただこの10年周期説は取り立てて意味のある数字とは思いません。


以前は夏季と冬季は同じ年に開催していました。しかし1992年のアルベールビル冬季大会以降、夏季と冬季が2年おきになりました。オリンピックにとって一番大きな収入はテレビ放映権です。夏季と冬季を同じ年に開催するとテレビ局は疲れてしまうのです。それで2年おきにして、放映権料を少し上げることができたのです。オリンピックはマーケティングです。ロイヤリティで結構な金額がIOCに入りますが、実はその中でIOCが使うのは10%、残り90%はそれぞれのオリンピック大会の支援、各競技団体への補助、発展途上国への援助などです。現在IOCには206の国と地域が加盟していて、そのすべてが東京に来ると思います。そういうことのために使われるのはよいのですが、しかしテレビの影響が強くなっています。放映権がいろいろなことに影響しています。東京オリンピックでは新しい競技が増えました。日本が要求したのは復活の野球・ソフトボールと空手だけです。IOCはこの2つを増やすのに、ローラーゲーム、サーフィン、スポーツクライミングの3つを増やすことを条件にしたのです。この3つは若い人に人気があるからです。平昌でのフィギュアスケートの競技時間は午前中です。これは一番高い放映権料を払っているアメリカの東部時間に合わせているからです。これも放映権の影響です。


オリンピック憲章では夏季をオリンピアード競技大会、冬季をオリンピック冬季大会と呼んでいます。1884年にパリで行われた国際スポーツ会議でクーベルタンが1896年にアテネで開催することを提唱して始まったわけです。その時は古代のスポーツマン大会を復活させようとして、夏季限定、男子限定で開催されたのです。古代ギリシャにおいては覇権を争っている都市国家が4年に1度の周期で停戦をしてゼウスの前でスポーツによって競いました。ですから1896年に第1オリンピアードとして開催され、それから回数を数えています。1916年、1940年、1944年の3回は開催されていませんが、回数としては数えていますので2020年は第32回オリンピアードとなるのです。しかし冬季オリンピックは中止になった時は飛ばして回数に入れていません。これが夏季大会と冬季大会の大きな違いです。


第1回冬季オリンピックは1924年でした。1908年の夏季大会でフィギュアスケートを実施、1920年にもフィギュアスケートとアイスホッケーを加えました。それから冬季オリンピック開催の話が本格的になりましたが、1921年にIOCが協議した時は5ヵ国だけの賛成でした。1924年シャモニー・モンブラン大会で冬季大会の機運が高まり、その大会を1925年にIOCが正式に第1回オリンピックと認定したのです。パラリンピックはもっと後になります。冬季大会は1976年からです。また、冬季オリンピックは自然との戦いです。1928年の第2回では屋外リンクの氷が溶けて、スピードスケート男子10,000mは途中で打ち切って後日再レースなどいくつものトラブルがあったとの話です。最近は暖冬で特にアルペンスキーは開催できる会場が少なくなり、今回の平昌や次回の北京のように人工雪での開催だと選手はスキーのワックスの使い方で大変苦労をしています。冬季オリンピックの定着に大きな役割を果たしたのはソニア・ヘニーというフィギュアスケート選手で、第2回から3連覇、その後ハリウッドで映画スターになりフィギュアスケートの人気を押し上げました。第1回の冬季大会は関東大震災の直後でしたので日本は第2回から参加しました。日本人が初めて冬季大会でメダルを取ったのは1956年のコルチナ・ダンペッツォ大会で、猪谷千春さんのアルペンスキー回転での銀メダルでした。この時に金メダルを取ったのがトニーザイラーで後に映画スターにもなりました。猪谷さんは後に1982年から29年間IOC委員を務め、現在も日本障害者スキー連盟の会長をやっておられます。この時に盛り上がりましたが次に続きませんでした。冬のスポーツでやっと盛り上がるのが1972年札幌オリンピックの日の丸飛行隊です。笠谷幸生さんは初めて冬季オリンピックで金メダルを取った人です。札幌はこれを機に100万都市になり、地下鉄が走り、真駒内を開発しました。開催予定だった1940年大会が中止になったので、なんとか札幌で開催したいと皆さんが熱心に誘致しました。そして70mジャンプで金銀銅を独占しました。


札幌は1968年にグルノーブルに敗れ、1972年に開催しました。長野は1回目の誘致で1998年に成功しました。長野の勝因はサマランチIOC会長を味方につけたことが大きかったのです。長野大会はボランティア元年と言われています。基本理念は「美しく自然との共存」。1994年にパリの会議でそれまでのスポーツと文化という2本の柱に環境を加えたのです。環境への配慮のためアルペンスキー滑降やバイアスロン競技場の計画を変更しました。高額になりましたが自然に帰るジャガイモの食器を作るなどしました。1校1国運動はこの時から始まりました。東京でもやろうとしています。しかしこの運動の発端は1995年広島のアジア大会の1公民館1国運動だと言われています。長野では今でも応援した国と交流が続いている学校があるそうで、とても素晴らしいことだと思っています。大会で大活躍してくれたのが32,000人のボランティアでした。寒い大変な環境で一生懸命やってくれました。阪神淡路大震災でボランティアという言葉が浸透してきましたが、それが長野のボランティアで確立したと考えています。サマランチIOC会長も素晴らしいと称賛していました。


オリンピックの見どころはたくさんありますが、まず選手を見ましょう。過去の選手では伊藤みどりさんや荒川静香さん、浅田真央さんですね。伊藤みどりさんはアルベールビルで銀メダル、荒川静香さんが男女通じて日本初のフィギュアスケート、シングル金メダルを2006年トリノで取りました。ソチでは浅田真央さんはショートで失敗しましたが、フリーの演技では世界中を感動させました。冬のオリンピックの環境問題についてもぜひ注目してください。これは1972年の札幌から始まっています。恵庭岳の滑降コース建設が自然破壊だと批判され、大会後15年かけて植林しましたが、現在でも元の状態ではないと言う人もいます。1994年リレハンメルでは「グリーンオリンピック」を標榜して、環境問題に取り組みました。冬の競技の特徴は夏に比べて採点競技が多いことです。夏は体操、アーティスティックスイミング(シンクロナイズドスイミング)の2つくらいだと思います。冬はフィギュアスケート、フリースタイルスキー、モーグル。モーグルはタイムに重きが置かれていますが、膝が揃っているかも採点対象です。スノーボードは技の種類もありますが、美しさも見どころです。平昌では誰を見ましょうか。アメリカのデータ会社は最初日本の金メダルは4個と言っていましたが、その後2個に修正しました。小平奈緒さんの500mと女子パシュートではないかとその会社は言っています。またノルディックスキー複合の渡部暁斗さん、羽生結弦さんなどを挙げていますが、冬のオリンピック8回目のレジェンド葛西紀明さんがどのようなジャンプを見せてくれるかが楽しみです。夏の大会では10回の人もいます。これは馬術や射撃で、これらは結構歳ををとっても出ることができますが、冬の競技は苛酷なので大変なのです。


皆さんボランティアには興味があると思います。実際に平昌に行くボランティアも大勢いますから、直接話を聴いて2020年に向けて意識を高めてください。この平昌は東京に続きます。スポーツへの関心、選手への期待も高まってきます。平昌パラリンピックでの経験からパラリンピアンに対して何ができるのか、何が必要とされているのかを学んでいくことができると思います。


【報告者:及川 登代子】


タイトル
オリパラ5大会を取材した記者が語る「平昌オリパラをより楽しむポイント」~歴史からレガシー、そして2020へ~
登壇者
佐野慎輔氏(株式会社産業経済新聞社 特別記者兼論説委員、笹川スポーツ財団 上席特別研究員)
日時
2018年2月7日(水)18:30~20:30
会場
東京都港区赤坂1-2-2 日本財団ビル
講座内容
  • オリンピックとパラリンピックの歴史
  • 夏季大会と冬季大会の違い
  • 平昌が掲げるレガシーとその実現可能性
  • 平昌オリパラの見どころ

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