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2021-07-20

すべてのスポーツボランティア仲間と共に

西川 千春さん

Nishikawa Chiharu

[所属] 笹川スポーツ財団特別研究員
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 ボランティア検討委員
日本スポーツボランティアネットワーク特別講師

忘れられないロンドン大会の活動初日

2012年7月28日。ロンドン2012大会のボランティア、ゲームズメーカーのユニフォームを着て、自転車で我が家から卓球など7競技が開催される「エクセル」に向かいました。前日の開会式の興奮がまだ収まらない状態で、活動初日は遅番シフトに入ることになっていました。途中、すれ違った宅配トラックのお兄さんから 「Thank you, Games Makers! = ありがとう、ゲームズメーカー!」と大声で声をかけられたのにはびっくり。思わず振り返って手を振ると、彼も窓から手を出してサムズアップ(いいねサイン)で応えてくれました。

そして会場に到着。大会の飾りや設備、関係者が動き回る姿とものすごい数の観衆を見て鳥肌が立つのが分かりました。一度会場内に入ると歓声、音楽などあらゆる音が交錯して不思議な世界に入り込んだ感覚です。さらに卓球のアリーナに入ると、ボールが弾け、シューズが床とこすれる音。また、卓球ではどこの国の選手であっても必ず叫ばれる「CHO=チョー」の雄叫びが耳に入ってきます。そしてイギリスなのに、なぜか観客席から聞こえてくるのは頑張れ、という意味の中国語「加油=ジャーヨウ」ばかり。国際大会では中国系の選手が多いこともあって、観客も同様に多いのです。

残念ながら東京大会は多くの会場が無観客で開催されることが決定されました。私が活動したロンドンやリオなども含め、過去のどの大会とも違うものになるのは確実です。観客の歓声が聞こえないのは本当に寂しいですが、ある意味、ユニークな大会であることを認めて参加し、自分ができる最大限の努力をする考えです。
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写真:ロンドン大会卓球会場

最大のヒーローは“現場のスタッフ”

ここに至るまでには様々な不透明要素が渦巻いていました。コロナウイルスCOVID-19の出現は世界を全く別物に変えてしまいました。そう言った中で大会を開催できるのか、中止するべきではないのか?目に見えない不安は、多くの人々の心をネガティブに押しやってしまったと感じます。そのはけ口がSNS上での様々な誹謗中傷となって表れたのです。当然、非難されるべき問題もありました。しかし、根拠のないデマからの中傷も非常に多いのです。そういった中で、ボランティア、つまり大会の一員である私たちの心も暗くなりがちなるのは分かります。

SNSに書き込まれる批判の多くは、大会の主催・運営側に向けられます。しかしボランティアがこんな状況でも活動できるのは、信じられない努力をされている現場スタッフのお陰なのです。毎日状況が変わり、予定通り進まない中で、スタッフの皆さんは「安心、安全」な大会を開催する、という唯一の目標に立ち向かっているのです。今回は無観客になったために「イベントサービス(EVS)」と呼ばれる、観客の誘導や案内などを主に担当するボランティア達の活動領域が大幅に無くなってしまいました。通常はボランティアの人数が最も多い役割の一つです。組織委員会のスタッフは、「もう活動する機会は無いかもしれない」と大変な不安に陥ったイベントサービスのボランティアを他の役割に配置転換をすることで、新たな希望を見出してくれたのです。私が活動する東京体育館(卓球)の言語サービスにはイベントサービスから移動してきた中国出身の仲間が新しく入ってきます。なんと卓球の国際大会での通訳経験もあるそうです。

それなのに、「ひどい対応」「連絡遅すぎ」などとスタッフを非難することが正しいことでしょうか?私は決してそう思いません。それどころか現場のスタッフは、今大会の最大のヒーローだと思います。彼ら、彼女らの懸命な働きなくして今大会はあり得ないのです。是非、現場スタッフへの尊敬と思いやりをぜひ示そうではありませんか。
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写真:装飾が進む競技会場周辺

リオ大会の教え

私はアメリカとイギリスに合計35年間住んでいました。様々な経験の中で、日本の考え方や行動などを外から客観的に見てきました。スポーツに限らず、オリンピック・パラリンピックは世界最大のイベントです。経験しなければ分かりませんが、あまりに巨大な規模であるため、すべてが計画通りには決して運びません。様々な要素やハプニングが作用して運営を難しくしているのです。これは運営管理をしている上層部に限らず、現場でも同様なのです。そういった意味では今回の東京大会も緊急度は高いですが、まったく同じです。

一般的に日本は物事をきちんと準備して、計画通りに細かく進めていくことが得意といわれます。海外において日本を表す代表的な表現として”Attention to detail”というフレーズがよく使われます。「細部まで細心の注意」を払うのが日本のイメージなのです。尊敬に値する我が国の誇りです。一方で想定外の事態が発生すると今までの計画が全くの白紙になってしまいパニックに陥るケースもあります。まさに今回がその代表だと言えます。

リオ大会はある意味参考にできるいいケースです。開催以前から施設建設・設置の遅れ、ジカ熱、テロ、犯罪、政治不安、資金不足といった様々な悪条件がありました。なんと直前には大統領が更迭されてしまう有様です。負のレガシーを残しながらも、大会自体は成功に終わったリオ2016は柔軟に本番でどうにか対応してゆく、というブラジル魂を見せたと言えます。「Gambiarra=ガンビアーハ」。ポルトガル語で「困難な中でも、なんとか最後はどうにかする」という意味だそうです。まさにリオ大会はこの一言に尽きました。ブラジル人曰く、「予定を立てて計画通り進めるのは不得意だけど、どうにかうまく終わらせるのは天才」なんだそうです。一つの美学、といっていいかもしれません。3週間、大会ボランティアとして舞台裏から様々なブラジル式対処法を観察しました。細かなことは本当にたくさん問題があるのですが、一番重要な結果を得るために「どうにか」してしまうのです(笑)
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写真:リオ大会の仲間たち

すべての仲間と共に「特別な大会に」

現場で活動する私たちもこういった異常事態を事前に想定して、様々な問題が出てきて予定通りにならないことを覚えておくことが必要です。肩の力を抜いてフレキシブルに対応することが第一です。オリンピック・パラリンピックの活動は普段のボランティア活動と違って期間が長期に及びます。様々なネガティブ要因をプレッシャーとして抱え込んでしまうと、精神的にも大きなダメージになってします。今回の活動の心がけとして是非、「フレキシブルに、考えすぎない」を頭に入れておくことお勧めします。
今大会はいろいろな意味で「特別な大会」になります。多分オリンピック・パラリンピックの歴史に刻まれる東京2020大会になるはずです。

前回のコラムで、様々な理由で参加を辞退せざるを得なかったボランティアについて触れました。彼らだけでなく、フィールドキャスト、シティキャスト、あるいはその他の大会関連ボランティアとしての活動を希望しながら、それが叶わなかった人は少なくありません。これらすべてのボランティア仲間の思いも背負って、東京2020大会で自分自身が輝き、楽しみながら選手たちの晴れ舞台を全力でサポートすることが、活躍する機会を与えられた私たちの使命なのではないでしょうか。そしてその体験は必ず一生忘れられないものとなるはずです。東京2020大会で活動しない人を含むすべてのボランティア仲間と共に、大会を成功に導きたいと思います。
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写真:すべてのスポーツボランティア仲間と共に本番へ

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