メインロゴ
  1. スポボラ.netトップ
  2. 活躍する人たち
  3. 西川 千春さん

2021-02-08

スポーツボランティア再考~イギリスの取組みを例に~ #1

西川 千春さん

Nishikawa Chiharu

[所属] 笹川スポーツ財団特別研究員
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 ボランティア検討委員
日本スポーツボランティアネットワーク特別講師

異なるボランティアへの考え方

2021年になりました。本来であれば延期された東京オリンピック・パラリンピックへの期待が一気に膨らむところですが、コロナウィルスが依然世界中で猛威を振るっています。東京大会がはたして開催できるのか、もし青信号になってもノーマルからは程遠い形になるに違いないでしょう。私自身も含め、大会期間中のボランティア活動を心待ちにしていた人たちの心の中は穏やかではありません。そういった状況だからこそ、どうして自分は手を挙げたのか、スポーツのボランティアの意義とは何なのかをもう一度考え直してみるいい機会ではないでしょうか。コロナ後のボランティア活動に向けて海外での事例なども参考に話を進めていこうと思います。 

私は1990年から28年にわたりイギリスのロンドンに住んでいました。そしてロンドン2012大会に初めてのボランティアとして参加しました。ロンドン大会の大成功の鍵であったゲームズメーカー(大会ボランティアの愛称)として「人生最高の二週間」を過ごしました。まさに人生を変える出来事だったのです。その後ソチ、リオ大会。また様々な国際的スポーツイベントのボランティアに参加してきました。そして2018年の夏に日本に戻ってきたのです。東京大会組織委員会のボランティア検討委員にも任命され、その年の終わりのボランティア募集開始に向けてプログラムの骨子やPR活動にかかわり始めました。

そういった中でイギリスでは全く経験しなかったボランティアへの批判的論調に接して唖然としたのです。そう、いわゆる「ブラックボランティア」です。今までボランティアは自分の時間や能力を自主的に提供する慈善活動として理解していましたので、感謝ではなくなぜ批判されるのか全く分からなかったのです。ロンドン大会の時には国民みんなが我々を応援してくれました。当時の首相であったデイビッド・キャメロン氏からもボランティア各自に感謝のレターが届きました。そんな中で反対意見に関する本を読んだり、ネット上での批判を見たりして、明らかに私がイギリスで理解していたボランティアの考え方と違うことが分かってきたのです。またボランティア反対陣営の論客で著作もある方と公開討論会までしました。テレビも含め多くの主要メディアが取材に来たのにはびっくりしたものです。そしてこの議論は社会構造や人々の考え方、労働慣習などに起因していることが分かってきました。

反対論の一つにこういう主張がありました。「オリンピックなんて完全な興行・商業イベントなのにボランティアを無報酬でこき使うなんて搾取でしかない」というものです。「やりがい搾取」というキャッチフレーズまで出てきたくらいです。そこでイギリスで最も人気があるプロスポーツイベントであるプロサッカーリーグでのボランティア活動はどのようになっているのだろうと考えました。日本のJリーグではそれぞれのクラブが募集して多くのボランティアが活動してます。試合当日の運営にかかわる役割も数多くみられます。そこで、イングランドのプロサッカー(現地ではフットボールといいます)でも、日本と同じようなボランティア活動が行われているのか、調べてみることにしました。イングランドでは、世界的に有名なマンチェスターユナイテッド、チェルシー、リバプールなどが所属するプレミアリーグを頂点としてその下にチャンピオンシップ、1部リーグ、2部リーグ、ナショナルリーグ、ナショナルリーグ北部&南部とイスミアンリーグと7つのレベルに分かれます。当然下部リーグになれば財政的にも厳しく、選手も競技だけでは生活していけないので別の仕事と掛け持ちしているケースが多数です。セミプロリーグといってもよいかもしれません。

まず初めに、トップリーグであるプレミアリーグについて、マンチェスターユナイテッド、チェルシー、リバプール、ウエストハムなど主要チームから調べてみました。ご存知の通り、イングランド・プレミアリーグはスペインのラ・リーガ、イタリアのセリエAなどと並んで世界トップのプロリーグで多くの世界的有名選手がプレーしています。巨大なビジネスでもあり、多くのスポンサーシップやメディアを通じて巨大な資金が流れ込む、真にエンターテイメント産業といっていいでしょう。当然のことながら、チームの多くは潤沢な資金を有しており、有名選手への桁違いな報酬や、立派なスタジアムの維持も十分に可能です。私はロンドン中心部でイズリントン区の南端のクラーケンウェルという場所に20年間住んでいました。イズリントン区住人の多くは地元アーセナルのファンで、ホームゲームではチームカラーである赤で塗りつぶされます。そして本拠地のエミレーツスタジアムの立派さは息をのむほどです。

実際にそれぞれのチームのボランティア活動はどうなっているのでしょう。上記に上げたすべてのチームは、チームが経済的な後ろ盾となった独立した公式なチャリティー団体を設立しています。例えば、リバプールにはLiverpool FC Foundation(LFC=リバプールフットボールクラブ財団)という組織があり、ボランティアを募っています。組織の概要は以下の通りです。

“The LFC Foundation’s team of volunteers engage children, young people and family's in the community, helping to raise aspirations and build personal connections with people in the Liverpool community, through the power of the Liverpool FC.”
「LFCのボランティアチームはリバプールFCのパワーを通して地域の子供たち、青少年そして家族たちと接し、彼らの意欲を高めリバプールコミュニティーの人達との関係を築いてゆきます」

そして彼らのボランティア活動は、すべて上記の財団を通じて行われます。あくまで地域コミュニティーへの貢献であり、ホームマッチなどの実際の運営にはタッチしないのです。具体的な活動としては、地域コミュニティーでのプロジェクトやイベントでのボランティア、例えばフットボールや他のスポーツの指導やダイバーシティー&インクリュージョンなどに関したプロジェクトです。シニアや障害を持った人たちを運ぶ運転手などの活動もあります。

一方でマンチェスターユナイテッドの場合Manchester United Foundationという財団を通した地域ボランティア活動が紹介されていますが、GoogleではJobs&Careersという求人欄にも飛びます。これは完全な仕事としての求人で、ケータリング、ラウンジ管理・接遇、スチュワードなどの募集が見つけられます。多くのチームはこういった仕事では直接フルタイムやパートタイムのスタッフとして雇用しているようです。スチュワードとはホームマッチなどで観客の入場、誘導などを担当し、試合終了後の片づけなども行うようです。Jリーグなどではボランティアが対応している内容も含まれます。ただ一番の役割は観客の安全を守ることで、トラブルなどがあればその処理に当たります。酔ったファンが乱闘騒ぎになるケースなどもあるわけです。従って、スチュワードになるためには英国ではSpectator Safety NVQ Level 2と呼ばれるトレーニングを受け認定書をもらわなければなりません。こうした活動は明らかにボランティアとは異なり、完全なプロの仕事として規定されてます。こういった求人欄には仕事の詳細な内容と責任範囲があり、会社(プロチームは営利企業)のチームの一員となって働き、収入を得る旨明確に記述されています。ちなみにボランティア運営の鉄則として、仕事として働くスタッフの職務領域とボランティアの活動範囲が被らないように設定します。指揮命令系統も完全に分けられます。

このように、プロスポーツチームに関わるボランティア活動でも、日本とイギリスには大きな違いがあります。

…#2に続く。
>>「スポーツボランティア再考~イギリスの取組みを例に~#2はこちらから

OTHER PEOPLE他の活躍する人たちを見る

一覧に戻る
ページトップへ