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2019-10-31

支える側の喜びも、見えない価値として残したい

神野 幹也さん

JINNO MIKINARI

[所属] 公益財団法人ラグビーワールドカップ2019組織委員会
人材戦略局 人事企画部 主任  ボランティアマネージャー

組織委員会に入ったきっかけと役割は?

社会的意義や被災地への思いが、転身を後押し

前職時代からサッカーJリーグやジャパンラグビートップリーグ、オリンピック・パラリンピックなどスポーツ関連の業務に関わった縁もあり、2018年2月に大会組織委員会へ入りました。すぐに、プログラムコンセプトなどのボランティアプログラム全体の設計に携わり、同年4月のボランティア募集開始からはマネージャーとしてプログラム全体の運営を担っています。

私は、「プロジェクトとして社会的な意義があり、誰かの役に立てること」と、「今まで誰も作ったことのない新しい価値を生み出して社会的なインパクトを出すこと」の二つの要素を満たすプロジェクトに携わりたいと考えています。今回の組織委員会の仕事は、ラグビーワールドカップという世界的なスポーツイベントを大会ボランティアの皆さまと力を合わせて創ることをミッションとしていて、そのための枠組みであるボランティアプログラムを全体統括する役割ということで、非常にやり甲斐を感じています。

もう一つ、私個人として、東日本大震災の被災地に対する想いもありました。2013年4月から2014年9月末まで岩手県大槌町の復興支援に関わり、仮設住宅に住みながら企業誘致などの仕事をしていました。この際、地元の皆さまには本当に良くしていただいて、彼らに誘われて私自身がラグビーを始めた、というご縁もあったんです。隣町の岩手県釜石市が開催都市の一つということで、復興に向かうこの地域の魅力や復興の力をスポーツ、ラグビーという軸で発信したい、という想いも持っています。

組織委員会に入って、ボランティアプログラムを一から立ち上げることになったわけですが、「スポーツボランティア」という存在が本格的に社会認知されるきっかけとなった「東京マラソン」の開催以来、これだけの規模のボランティアプログラムを企画することは我が国にとっても初めてのプロジェクトということで、様々な立場の方々の知見を集め、ジグソーパズルのように組み合わせる「ハイブリッド・スタイル」で進めていきました。チームには2011年(ニュージーランド大会)や2015年(イングランド大会)だけでなく、2012年のロンドン五輪や2015年のクリケットW杯などの運営経験者もいますし、私自身も前職時代から東京国体の流れでスポーツボランティアに関する仕事もしていました。プライベートでボランティア活動などもしていましたので、そうした経験や知識を生かすことが出来ました。ある種の「和洋折衷」「いいところ取り」を追求した結果が、現在のプログラムと考えています。

まず最初に、プログラムのコンセプトづくりから始めました。「大会にとって、大会ボランティアの皆さまに期待するもの、大会ボランティアだからこそ果たしていただける役割とは何か?」「どのために、どのような方々にご参加いただいて、どのような活動をしていただきたいか」「大会後、どのようなレガシーを残してきたいか」などを整理していくことで、プログラムとしてどのベクトルを目指していくのかを明確にしました。その結果辿り着いたのが、現在の「NO-SIDE(ノーサイド)」というプログラムです。

「NO-SIDE」というコンセプトの由来や込めた思いは?

支える側の喜びを力に、チーム一丸でおもてなし

ラグビーワールドカップは4年に一度ですが、日本開催のラグビーワールドカップは一生に一度かもしれない。そんな貴重な機会の楽しみ方として、「チケットを買って観戦する」「ファンゾーンでPVを観る」など様々なパターンがあると思うのですが、「大会ボランティアとして大会を支える側に回り、世界的スポーツイベントを一緒に創り上げる」という楽しみ方もあるのではないか、と。ラグビーワールドカップのようなメジャースポーツイベントのボランティアプログラムに参加すると、「普段できない体験」や「普段出会えない人と出会える」といった、ただ観戦するだけでは得られないものがある。何より、これだけ大規模なスポーツイベントを一緒になって創っていただく機会はまさに「一生に一度」かもしれない。これをコンセプトの軸にしました。
同時に、大会ボランティアの皆さまには「大会の顔」として、会場の特別な雰囲気や空気感を共に創っていく役割を担っていただきたい、と考えました。大会ボランティアの皆さまだからこそ、観客の皆さまに近い目線で、かつ運営側の立場も理解しながら、掛け値なしの「おもてなし」ができる。この役割は、我々職員やイベントスタッフのような「仕事として携わっている」人間には出来ないと考えています。

もう一つ、「大会後のレガシー」という観点で考えた時に大切にしたのは、「日本や開催都市の魅力を発信する」、「ラグビーという競技の魅力を発信する」という2つの点でした。

今、日本は訪日海外観光客が飛躍的に伸びていますが、その多くはアジア圏の方々です。一方で、ラグビーワールドカップの観戦に訪れる海外の方々は、ラグビーが盛んな地域からやってきますから、欧州やオセアニア、南アフリカなど、「今まで日本に来たことが無い」方も多い。初来日する方々に「日本は、この街は素敵だ。また来たい。」と思っていただきたい。そのためには、ポジティブな印象を持って帰ってもらえるような、日本や開催都市の魅力を伝えるホスピタリティを提供したいと考えました。

「ラグビー」という観点では、今大会はアジアで初めて開催されるラグビーワールドカップということで、「新たなラグビーファンを獲得する」というミッションを背負っていると考えています。ラグビーの競技人口は、イギリス連邦に属する国を中心に偏在しています。だからこそ、これまでのラグビーワールドカップはこうしたラグビーが盛んな地域で継続して開催されてきたわけですが、ラグビーという競技の将来を考えると人口が最も多いアジア市場への普及は外せない要素ですから、その突破口を開くのが今大会である、と。我々のボランティアプログラムも、このミッションと連動する必要があります。
前回イングランド大会のボランティアは「ラグビー界への恩返し」というコンセプトで、主にラグビー関係者で占められていましたが、今大会は異なるコンセプトとして「様々なバックグラウンドをお持ちの方々に参加していただいて、力を合わせて大会を創る」という方向性を目指そう、と考えました。これまでラグビーとの縁が薄かった方にもたくさんご参加いただき、ラグビーワールドカップのような「世界的イベントを一緒に創った」という経験を共有することで新しい仲間を増やし、「ラグビーの輪」を広げて大会後に繋げたい、ということですね。

そんな想いを象徴する言葉として選んだのが、「NO-SIDE」です。元々はラグビーの競技用語で「試合終了」という意味で使われていましたが、現在世界的にはあまり使われていません。一方で、日本ラグビー界ではこの言葉をとても大切に守ってきていまして、それも単なる「試合終了」という意味だけでなく、「試合が終われば、敵味方の立場を超えて互いに敬い、称え合う」というラグビーの精神性を象徴する言葉として特別な意味を持たせてきました。
「様々なバックグラウンドを持つ方々が力を合わせてこの世界的イベントを創り上げ、この国や街の魅力を発信する」というプログラムの目指す方向性と一番マッチしたのがこの言葉でした。
特に、組織委員会の職員もボランティアも大会を創る仲間であり、立場を越えチーム一丸となって国内外からの観客をおもてなしし、さまざまな力を合わせて素晴らしい大会を創ろうという思いを込めました。

もちろん、ボランティア自身も国籍や年齢も幅広く、ラグビーファンやそうでない方、スポーツボランティア経験のある人やない人など多様な人の集まりですから、違いを認め合い一つのチームになって活動するという意味も込めて、チーム名も「TEAM NO-SIDE」にしました。

出来上がった「Team NO-SIDE」。
どんなチームでしょうか?

都市ごとに見える特徴。活動の広がりにも期待

ボランティアはラグビーワールドカップ史上最多となる、38,000人以上の応募者の中から選考し、10,000人の採用予定でしたが約13,000人に採用を増員しました。採用されたボランティアの男女比は半々、年齢層も20代から60代までバランスよく、国籍も30カ国以上からの参加となり、我々が目指していたとおり、多様なバックグラウンドをもつ「TEAM NO-SIDE」が出来上がりました。

私自身が特に面白いなと感じるのは、全国12会場のボランティアそれぞれに地域ごとに特徴がある点です。全国にラグビーやスポーツボランティアの魅力を広げるという意味でもいいことだと思っています。

例えば、釜石市は約4割が県外からの参加です。東日本大震災の復興支援でご縁が出来た方が「第二の里帰り」の想いで参加されているケースも多い。一方、大分市は9割が地元の方です。元々、観光県としてたくさんの方をお迎えする文化が根付いている地域で、大きな大会を地元で盛り上げようという想いが強いと感じます。ラグビーの聖地、花園ではラグビー好きな方が多いです。
スポーツボランティアのレガシーを感じる地区もあります。例えば、東京は東京マラソン、札幌は冬季アジア大会でのボランティア経験者が、神奈川・横浜や静岡、神戸では2002年のサッカーW杯の参加者が多いといった具合です。

大きなスポーツイベントが日本で開催されることの価値はさまざまありますが、その一つがボランティアです。特に、日本のような非英語圏の国では、世界的スポーツイベントの運営に関わるハードルは高いですので、日本開催のような機会は非常に貴重です。
開幕直前の今、ボランティアの皆さんに期待することは、まずは活動自体を楽しみ、一緒に大会を創っていただきたい。そして、大会が終わったとき、「参加してよかった」と思い、大会以降にもボランティアとして活動の舞台を広げていただきたいと思っています。

最後に、どのような大会になってほしいですか?

スポーツボランティア文化が根づくきっかけに

大きなイベントではよく、経済効果が成功の指標とされますが、見えない形で残るものの存在もぜひ多くの方に知っていただきたいと思っています。
ボランティアはその代表的な一つだと思います。

例えば、欧米ではラグビーワールドカップのような世界的スポーツイベントのボランティア活動はキャリアとして高く評価され、履歴書にも書くほどです。職場や家庭ではできない体験ができ、日常生活では会えない人と出会え、その後の人生にもいい影響を与え、人材としての質が向上するという、ボランティアの価値が社会的に認められているからです。企業経営者も、自社の従業員を積極的にボランティアへ送り出すような風土が根付いています。
しかし、日本ではまだまだそのような意識、価値の認められ方はしていません。

大会ボランティアの皆さまには、ラグビーワールドカップのボランティアの経験を通じて、その価値を発信していただきたいですし、その価値が社会的に認知されることがスポーツボランティア文化の根づきにつながることを願っています。ボランティアに参加する価値が社会的に認められれば、もっと多くの人が参加し、ボランティア休暇制度なども広がっていくのではないでしょうか。

ボランティア文化の根づきには、我々組織委員会もボランティアに対してラグビーワールドカップならではの特別な機会を提供する必要がある。そんな使命も背負っていると思っています。

大会には観客が約182万人、メディアも国内外約3,000人が訪れると予想されています。でも、組織委員会職員は400人ほどしかいないので、大会ボランティアの皆さんの力がとても重要です。実際、大会ボランティアの皆さまの熱意はとても高いので、本当に心強いです。

むしろ我々組織委員会がその温度感に合わせていくことが今、問われているようにも感じています。皆で一緒に素晴らしい大会を創り上げ、「楽しかった」と共に喜び合えたらと思っています。
               (取材日:2019年9月11日)

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